青春売買ホテル
 
青春妄想

一つの言葉を題に文を綴る

   
  「ホテル」を題材に書く。
    茜 「ラブホテルに潜む青春のかたち」
    虎子 「安ホテルとアタック25」

   
  ■ラブホテルに潜む青春のかたち  by 茜

「プール付のホテル行こうよ」
男は私にそう言い、私は笑って「行く」と言う。17の冬だ。「ホ・テ・ル」と声に出して言ってみる。色っぽくね。この響きに味わう、こんな女はずるいと思う。

「目的はわかってるか?」
分かってるわ。宿泊でしょ?
「そんなの上辺のことだ。男女で行くホテルの本当の目的はなんだ?」
分かってる。分かってる。セックスだろう。

結局、私たちはプール付のホテルへは行けなかった。なんとそこのホテルは改装中だったのだ。私たちは苦笑しながら、隣のホテルに行った。

ホテルの一室。私の何度とホテルの一室を見てきたが、いつも思うのだ。「ここは私(または私たち)のために用意された部屋」と。その一室は確かに、大勢の誰かが寝泊りしてきた過去のある一室だということはわかっているのに。その面影はまったくないのだ。何故か、「私のために用意された部屋」と錯覚してしまう。そのホテルの一室は最低限のものしか揃っていない。私の愛用のパソコンも本も写真でさえもない。しかし、ここは「私のために用意された部屋」なのだ。しかし、ホテルの一室は語る。
「用が済んだら早く帰ってね」
と。「また来てね」とは私に語りかけない。また、「私のために用意された部屋」とは知りながらも、ホテルの一室は歓迎してはくれない。誘惑さえもしない。ホテルの一室とは限らなく、ホテルそのものの大きなものも、それはただそこに存在するだけだ。そして、ホテルの一室に何を残すか。私がホテルに何を残すかは、秘密だ。それは、「秘密にする」のではなく、「秘密を残す」ということだ。
 ホテルはいじわる。
 ホテルは無表情。
 ホテルは寂しそう。
 だから、私はホテルを愛することができる。ほら、「ホ・テ・ル」と声に出してみる。色っぽくね。この響きに味わう、こんな女はずるいと思うが、ほら、ホテルも味わって。
 「やれやれ、ホテルのせいで私はこんな女になったのだ!ねえ?ねえ?ホテル?」とヘリツクを押し付けてみるが、ホテルは相変わらず何も言わない。言うとしたら、「用が済んだら早く帰ってね」だ。
そこで、忘れてはいないぞ。隣に男がいるのだ。私と男は、「秘密」を作る。それが愛だのなんだのは別の話。実はこれは、私がいつもホテルにふられているという話。
 しかし、ホテルはどこにも行かないのだ。だから私はホテルに安心する。突然現れて、去ってしまう男とは違う。ホテルは違うのだ。
 ホテルは優しい。
 でも、ホテルは悲しそう。
 ある日、ホテルにいる時、悲しい過去をいくつも思い出す。ああ、ホテル。何故、あなたは何も言わないの?私はこのままでいい筈ではないのに!ホテル!そして私は男と「秘密」を作っている!ホテルだけが知っているのに、あなたはそれを消してしまう!
 いつも、ホテルから出ると寂しい。そして男も去る。ホテルは存在しているが、私を求めていない。だから私は気が楽で、寂しいのだ。だから私はホテルを愛し、憎むのだ。
 先日、ある男と「最後の秘密」というものを残してみた。相変わらず、ホテルはそれを消して、新しい男女を迎えるのでしょうね。
 ホテルと男と泣いた私。
 愛憎するホテルで優しい男の前で泣くまいとしていたのに、私を求めてほしいと泣いた。その時、私はホテルではなく、その男だけを求めた。でも、男は去った。

本当の本当は、私はホテルでこんなことを繰り返しているという愚かな話だ。
あ、ホテルが笑っている気がする。
(2005-04-15 茜)

   
  ■安ホテルとアタック25  by 虎子

 人が一生に立ち寄るホテルをラブホとそれ以外に分けてカウントするなら、私は現時点ではまだラブホの方が多い。それはやがてビジネスホテルやシティホテルに並ばれ追い越されていくのだろうが、大分先のことになるだろう。
 そうまで私がその昔ラブホに通いつめたのは、ごくありふれた理由で、私も当時の彼も親と一緒に住んでいたからだった。彼とは付き合っていた時間の大半をホテルの中で過ごした。彼と過ごした時間の大半がホテルの中だったのは、昼間からホテルにこもっていたからで、昼間からホテルにこもっていたのは、昼間は外で遊んで一日の締めくくりにメイクラブなんてことができるほど経済的余裕がなくて、サービスタイムを有効活用するしかなかったからで、お小遣いとバイト代の大半がホテル代に消えていたのも同じ理由からだった。だから20代前半の私にとってラブホは、70年代フォークの世界でいう三畳一間のアパートとそう変わりがなかった。
 そのホテルの名前を、思い出そうとして、思い出すまでに一週間くらいかかった。そう、「ゴールデン」だ。「第一ゴールデン」「第二ゴールデン」・・・と番号のつく繁華街のラブホチェーン。カラオケやジェットバスが完備されているホテルを第三世代、白亜の城や年中クリスマスといった奇抜な装飾を売りにするのを第二世代と呼ぶなら、それ以前の、ただベッドがあり鏡があるだけのラブホ黎明期の遺産のようなつくりだった。数本のビデオがエンドレスで流されるだけのアダルトチャンネルは、画面が緑がかっていて、不思議とつけるたびに同じシーンが映し出された。決して清潔とはいえないタイル張りの風呂場は、さすがというべきか蛇口をひねったときの水の勢いはすごかったが、部屋によってはお湯が届かず水になることもあった(それがどの部屋かも熟知していた)。冷蔵庫の中身はビールと長細い缶のポカリスエットにウーロン茶、缶コーヒー、それも自販機式ではなく自己申告で料金を払うものだった。
 そんなところに私は、盛り上がるものも興ざめるものもないまま、規則正しく通っていた。
 豪奢なものを望まなかったのは、ただただ、だるかったからだ。着飾らなくても、笑っていなくても、立っていなくてもいい、裸で横になれる場所があればそれでよかった。セックスして昼寝してテレビを見てセックスして昼寝して・・・その合間に自分語りをして、泣いて叫んで死のうとして殺そうとして、セックスして昼寝して・・・それが彼とラブホに入った数だけ積み重ねられた。
 日曜日だと、セックスして昼寝して、テレビをつけて買ってきた昼食を食べると、アタック25の時間になった。当時の彼はクイズ番組が好きだったので、いつも一緒にアタック25を見ていた。そのあとの彼はクイズ番組が嫌いだった。今の彼はクイズ番組が好きだ。
 今も、私は彼と日曜日になるとアタック25を見ている。
(2005-04-18 虎子)